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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1522号 判決 1998年9月10日

第一五二二号事件控訴人兼第一五八五号事件被控訴人

大澤靖志

(第一審原告・以下「第一審原告」という。)

右訴訟代理人弁護士

森博行

第一五二二号事件被控訴人兼第一五八五号事件控訴人

(第一審被告・以下「第一審被告」という。)

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

塚原聡

泉宏哉

鈴木日出男

小林邦弘

高橋誠司

田中健

塩見芳隆

田中康弘

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用はこれを四分し、その一を第一審被告の、その余を第一審原告の、それぞれ負担とする。

事実及び争点

第一申立

(第一審原告)

一 原判決を次のとおり変更する。

二 第一審被告は第一審原告に対し、金一二万五六〇六円及び内金九〇五六円に対する平成三年八月一七日から、内金一〇万円に対する平成五年四月一七日から、内金三七四七円に対する平成五年五月一九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(第一審被告)

一 原判決中、第一審被告敗訴部分を取り消す。

二 右取消部分にかかる第一審原告の請求を棄却する。

第二事案の概要

一 次に付加、訂正、削除し、二以下に付加するほかは、原判決の事実及び理由の第二事案の概要のとおりであるから、これを引用する。

1 原判決五頁九行目(本誌七二四号<以下同じ>86頁1段19行目)の「属する外務」の次に「三班」を加える。

2 原判決九頁五行目(86頁3段29行目)の「得なければ」の次に「ならず、病気その他のやむを得ない理由によりあらかじめ申出のできなかったときは、事後すみやかに申し出なければ」を加える。

3 原判決一六頁一行目(87頁4段8行目)の「九時前ころ」を削除する。

4 同頁六行目(87頁4段16行目)の「休職」を「欠務」と改める。

5 原判決二〇頁二行目(88頁2段12行目)の「平成三年三月中旬」を「平成五年三月二一日」と改める。

6 原判決二二頁二行目(88頁3段9行目)の「右同日」を「同月九日」と改める。

7 同頁七行目(88頁3段19行目)及び原判決二五頁一行目(89頁1段1行目)の「三年」を「五年」と改める。

8 原判決三八頁二行目(91頁1段19行目)の「処分」の前に「訓告」を加える。

二 第一審原告の当審における主張

1 平成三年七月一八日の年休請求について

(一) 郵政省就業規則八六条二項にいう「やむを得ない事由」とは、年休の取得目的とは関わりがなく、同条一項所定の事前請求ができなかった事情に関わるものであるところ、第一審原告の平成三年七月一八日の年休請求について、右の事由があったことは明らかである。

(二) 川井課長は、年休の事前請求ができなかった事情についての第一審原告の説明如何にかかわらず、これを承認しないとの結論を出していたものであるから、第一審原告が右の事情を説明しなかったことはやむを得ないものであったということができる。

(三) 原判決は、第一審原告が事後に書面による請求をすることが客観的に期待できない状況にあったとはいえないと認定しているが、(人証略)等の証拠によれば、むしろ右のような状況にあったと認められるべきである。

2 平成五年三月一〇日の時間年休請求について

(一) 第一審被告は、第一審原告の欠務により、三班一五区の中村の通常配達(通配)の応援が必要になったと主張するが、中村は自転車による配達を認められた勤務軽減者ではあるが、配達準備の内務作業については何ら問題のない三班の班長を務めるベテラン職員であったところ、第一審原告が中村の外務作業を応援することは予定されていなかったので、第一審原告が午前中配達準備作業をしなかったことと、午後に中村の配達に応援が必要になったこととの間には、因果関係がない。

(二) 三班に配置された非常勤職員である田中は、当日午前中は通配一二及び一三区の業務を担当したようであるが、班長である中村が自己の担当する一五区に田中を配置しなかったということは、少なくとも午前中の作業については田中の応援を必要としないと判断したからにほかならない。

(三) 第一審原告が三月一〇日の時間年休を請求した時点では、速達二区二号便は、二区一号便を担当予定の仲村に担当させることが予定されていた。

(四) 第一審被告が、三月一〇日当日郵政監察の事情聴取が予定されていたという職員は一班に所属する職員であり、一方、藤田総務主任は五班所属であるから、同主任を右職員の後補充に充てても、第一審被告も主張する通区の関係で何の意味もない。同主任は、午後は自班の補助をする以外に仕事はなかったはずであるから、第一審原告の応援をすることもできたはずである。

(五) 三月一〇日当日は、三班の通配補助の非常勤職員が通常どおり外務、内務各一名ずつ配置されていたところ、それでも午前中の通配補助の作業に支障が生じるということになると、(人証略)が認めたように、混合担務で二号便及び三号便を担当すべき職員は午前中年休を取れないということにならざるをえず、著しく不合理である。

三 第一審被告の当審における主張

1 平成三年七月一八日の年休請求について

年休の事後請求をするためには、当該職員は、欠務の事由を疎明しなければならない(郵政省就業規則一一条)ところ、第一審原告はその疎明すらしていない。

2 平成五年三月一〇日の時間年休請求について

(一) 休暇定数

休暇定数は、各郵便局の課等における要員算出の内訳のうち、業務を正常に運行しながら、職員が年休・非番・週休等により休むことができる定数を各地方郵政局において示したものである。休暇定数を厳守することは、最低限必要な配置人員を確保するために必要な最低条件である。休暇定数を超えて年休等を付与することは、業務運行に必要な最低配置人員を欠くことになり、業務支障発生の蓋然性が高いことになる。このため、郵便局、とりわけ集配部門においては、休暇定数を基準として要員配置を行っているところである。

第一集配課においては、三月一〇日当日通配一五区担当の中村のように、通配担務を担当する職員の中に低能率の職員あるいは勤務軽減措置を受けている職員がおり、その補充をする職員を必要としたことから、休暇定数の計算上八名とされていた混合担務に非常勤職員を充てることにより捻出した一名分の本務者を計画的に通配担務に配置していた。したがって、右一名は通配担務に常態的に必要とされていたもので、課全体としての休暇定数が一一名であることに変わりはない。

(二) 当日の業務上の支障のおそれ

第一審原告が当日午前中に担当すべきであった通配の局内作業の応援は、単なる応援ではなくて重要な本来業務であり、また、三班に配置されていた非常勤職員は、元々担当させるべき職務があったから配置されていたものであり、第一審原告の代替要員となりうる者ではない。通配の局内作業である各配達区中の配達ブロックごとの区分である大区分作業及びそれに引き続く道順組立作業をするには、配達区内の事情に通じるという、いわゆる「通区」が必要であり、誰であっても通区している本務者の代替ができるというものではない。

速達二区二号便に非常勤職員の加藤が配置されていたのは、当該地域を分割して第一審原告と加藤にそれぞれの地域の配達をさせる必要があったからであり、また、非常勤職員の能率は本務者より低く、同職員により第一審原告の職務を代替させることはできない。

三月一〇日当日に勤務予定の外務の非常勤職員は合計二〇名であり、うち七名が通配担務に配置され、うち四名が混合担務に配置されることになっていた。しかし、当日は非常勤職員が特別多く配置されていたものではなく、余裕があったわけではなかった。また、課長代理には課長代理としての本来業務があるから、課長代理を本務者の代替要員とすることはできない。なお、当日、藤田総務主任を課長代理代務者の名目をもって配置したが、これは、郵政監察から事情聴取を受けることになっていた職員の欠務の発生に備えて、松尾課長が機動的に職務に就かせるために配置したものであって、課長代理の職務を行わせるために配置したものではない。そして、実際に右職員に対する事情聴取がなされることとなった場合には、速達一区一号便担当予定であった石原を通配一区に配置し、速達一区一号便には藤田総務主任と非常勤職員藤本とを配置することを予定していた。午後については、藤田総務主任を五班の通配担務の応援要員とする予定であった。

(三) 現実に生じた業務上の支障

第一審原告の欠務により、午前中の三班通配区の応援要員が配置できなくなったことから、非常勤職員の加藤を速達二区二号便から通配一五区の中村の応援として配置せざるをえなくなった。そのため、加藤は速達二区二号便を担当できなくなり、田中課長代理が速達二区二号便の一部を処理せざるをえない事態となった。三班については、非常勤職員の田中と第一審原告の二名で通配担務の補助作業を行わせることを予定していたところ、田中は、午前中は一二及び一三区の外務作業等に、午後は一一区の外務作業等に従事したが、一五区担当の中村は、自転車で配達をするため応援が必要であったにもかかわらず応援する者がいなかったことから、午後加藤を右応援に充てざるをえなかったものである。

なお、当日、仲村の後補充として藤田総務主任及び加藤が入っているが、これは、年休者の補充ではなく、突発欠務の補充である。

(四) 休暇付与の実態

休暇定数枠外であっても年休が取得できたり、混合担務についても非常勤職員や課長代理を配置することにより年休が付与されていたというのは、突発的な欠務が生じた場合等のやむを得ない事情があった際の例外的な措置としてなされていたものか、あるいは、近畿郵政局が休暇定数を最高一五名まで許容していた平成二年四月から平成四年三月までの間の特別な事情下のものに過ぎない。人員配置の計画段階(勤務指定から年休請求対象日の前日正午まで)から、休暇定数を超えて休暇を付与することはなかった。

東灘局においては、従前、葬儀出席を理由とする年休請求に対しては、業務支障の有無を判断することなく認められる場合があった。しかし、右の取り扱いは、郵便事業の公共性等に照らして到底許されるべきものではないことから、是正措置がとられていたものである。そして、右是正措置の趣旨に鑑みて、東灘局長から松尾課長に対して、年休等の請求に対し、業務支障が発生しない範囲か、すなわち、休暇定数を超えない範囲か否かを正確に判断するよう、強い指示がなされていた。

なお、速達一号便を担当した職員が速達二号便を担当する運用がなされたことがあるにしても、それは、突発的な欠務による要員不足に対処するためにとられた例外的措置に過ぎない。こうした運用は、午後からの通配担務の応援者がいなくなることから、一般化することはできないものである。

理由

一  平成三年七月一八日の年休請求について

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の第三争点に対する判断一(原判決三八頁四行目(91頁1段22行目)から五〇頁二行目(93頁1段17行目)まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四五頁四行目(92頁2段9行目)の「時季指定権の存否」を「時季指定権行使の有無」と改める。

2  原判決四九頁四行目(93頁1段1行目)の「一九日」から同九行目(93頁1段10行目)末尾までを、次のとおり改める。

「第一審原告は、一九日の出勤時までに就業規則一一条の規定に基づく欠務の承認を受けておらず、欠勤扱いとされていたものであるが、前日の第一審原告の川井課長に対する説明では事前に欠務の申出ができなかったやむを得ない理由の説明としては不十分であり、一九日当日にも第一審原告は右の理由説明をしていないのであるから、同課長が欠務を承認せず、年休の事後請求も許さなかったことに違法な点はなく、このような場合に、口頭による事後請求を適法とすべき根拠はないというべきである。」

3  第一審原告の当審における主張について

(一)  平成三年七月一八日の年休に関する第一審原告の当審における主張(一)に鑑みて、証拠を精査してみたが、右の年休請求について、就業規則八六条二項に規定する「やむを得ない事由」があったと認めるには足りない。

(二)  同(二)の主張についても、川井課長が第一審原告の説明如何にかかわらず承認しないとの結論を出していたとする根拠はなく、むしろ、第一審原告が事情の説明をしなかったので、同課長としても承認すべきとの判断に至らなかったものであると認められるから、採用できない。

(三)  同(三)の主張については、前述のとおり、川井課長が第一審原告の年休の事後請求を許さなかったことに違法な点はないから、右の主張について判断するまでもなく、第一審原告の有効な年休請求があったものとは認められない。

二  平成五年三月一〇日の時間年休請求について

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の第三争点に対する判断二(原判決五〇頁三行目(93頁1段18行目)から六五頁一行目(95頁3段1行目)まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五一頁五行目(93頁2段13行目)の「(証拠略)」の次に「(証拠略)」を加える。

2  同頁七行目(93頁2段15行目)及び九行目(93頁2段19行目)の「体勢」を「体制」と改める。

3  同頁九行目(93頁2段19行目)の「(証拠略)」の次に「(証拠略)」を、「<人証略>」の次に「<人証略>」を、それぞれ加える。

4  原判決五二頁の末行末尾(93頁3段11行目>に、次のとおり加える。

「混合担務については、後記(四)のとおり、日勤四名と中勤三名の合計七名の職員(本務者)を充て、他は非常勤職員(ゆうメイト)で補っていたが、これは、三班所属の総務主任で班長である中村のように、自転車による配達等のため勤務を軽減されている職員が合計三名(第一審原告も週一ないし二回の通院のため勤務を軽減されていた。)いたため、通配担務に一名の職員を追加配置する必要から、混合担務に非常勤職員を充てることにより、右一名分を捻出していたことによるものであり、第一集配課の休暇定数が一一名であることに変わりはなかった。」

5  原判決五六頁八行目(94頁1段19行目)の「(証拠略)」の次に「(証拠略)」を、「(証拠略)」の次に「(証拠略)」を、「<人証略>」の次に「<人証略>」を、「によれば」の前に「及び弁論の全趣旨」を、それぞれ加える。

6  同頁一〇行目(94頁1段21行目)の「休暇請求」を「休暇等による欠務」と改める。

7  原判決五七頁一行目(94頁1段26行目)の末尾に「右のほか、松尾課長しか知らされていないことではあったが、三月一〇日に郵政監察から事情聴取されることがありうる職員が一名あり、この者を加えると合計一三名の職員(本務者)の休暇等による欠務がありうる状況であった。現にこの職員は、三月一〇日当日、七時間の時間年休を取得した。」を加える。

8  同頁二行目(94頁1段28行目)の「非常勤一名」の次に「(田中)」を加える。

9  原判決五八頁三行目(94頁2段14行目)の「午後」の次に「四時三〇分ころ」を加え、「請求」の次に「(事後請求)」を加え、同頁四行目(94頁2段16行目)の「藤田課長代理」を「藤田総務主任」に改める。

10  同頁五行目(94頁2段18行目)の「岡元は、」の次に「三月一〇日当日、風邪のため突発的に欠務した阪本の代わりに通配四班一九区に後補充に入り、」を加える。

11  同頁六行目(94頁2段21行目)の「応援」の前に「中村の」を加え、同頁七行目末尾(94頁2段22行目)に、「同課長代理が担当したのは、加藤が日常的に担当していた住吉浜町地域の速達配達であった。」を加える。

12  原判決五九頁一行目(94頁2段31行目)から四行目(94頁3段6行目)までを、次のとおり改める。

「さらに、課長代理二名(日勤、中勤各一名)が配置され、藤田総務主任が課長代理代務者として配置されていたが、これは、当日郵政監察から事情聴取されることが予定されていた職員がいたため、これに備えて機動的に欠務者の後補充ができるようにするためであった。また、三月一〇日当日勤務予定の非常勤職員は合計二〇名であり、通常の日より数名ほど多かったが、そのうち局から離れた場所にある団地担当を除く通配担務担当は七名、混合担務担当は四名が配置される予定であった。」

13  原判決五九頁七行目(94頁3段11行目)から六四頁一〇行目(95頁2段29行目)までを、次のとおり改める。

「(一) 第一審被告は、休暇定数を一つの根拠として、第一審原告の年休請求の時点で、既に第一集配課の必要配置人員数を割り込む状況であったと主張している。

確かに、第一審原告の年休請求時点で、郵政監察から事情聴取されることが予定されていた職員を含めると、休暇等による欠務予定者が一三名に上る状況であり、休暇定数一一名を割り込む状況であったことが認められる。

しかし、第一集配課における休暇付与の実態を見ると、休暇枠の範囲内であっても、同じ班の職員が半数以上休む場合は年休を請求どおり取得できないこともあったのに対し、休暇定数を超えて、最大限では四名程度超えて、年休を請求どおり取得できることもあり、速達配達区(混合担務)においても、欠区が出るというだけで年休が付与されないというものではなく、非常勤職員や課長代理を配置することによって補っていたこと(<証拠・人証略>)及び第一集配課における休暇定数自体についても、最大限一五名まで許容されていた時期があり、また、本件直後の平成五年三月二一日以降は、職員の週休日、非番日の日数が四週間に七日から八日に増加されたことに伴い、休暇定数が一三名に拡大されたもので、休暇定数自体は諸々の要素により見直されるものであって、休暇付与の基準ではあるが、絶対的基準とまではいえないこと(<証拠略>)に照らすと、第一審原告の休暇によって事業の正常な運営が妨げられるか否かの判断にあたっては、単に本務職員が休暇定数の枠内で必要数配置されていたかどうかというのみでなく、非常勤職員や課長代理による代替可能性の考慮も含めて、現実に右支障が生じるおそれがあったかどうかを検討する必要があるというべきである。

なお、第一審被告は、休暇定数枠外であっても年休が取得できたり、混合担務についても非常勤職員や課長代理を配置することにより年休が付与されたりしていたというのは、突発的な欠務が生じた場合等のやむを得ない事情があった際の例外的な措置としてなされていたもの等である旨主張し、証拠(<証拠・人証略>)中にも右主張に沿うものがあるが、本件前後の平成五年三月九日、一二日及び一九日にも右の事態が発生している(<証拠略>)のであり、その発生頻度からすれば、もはや例外的な事態とはいえないものである(<人証略>も、<証拠略>の平成五年三月一二日や同月一九日の事態は、特に異常ではないと供述している。)というほかなく、仮に、突発的な欠務等によるものであるとしても、それが職場の実態であったという認定を左右するものではないということができる。

(二) そこで、まず、第一審原告の年休請求の際、松尾課長がいかなる理由で時季変更権を行使したかについて検討する。

証拠(<証拠・人証略>)中には、午前中の通配の内務作業の応援の必要性と午後の速達配達が遅れることを理由とした旨の部分がある。しかしながら、(証拠略)の作成者である(人証略)は、時季変更の通知を第一審原告にどのようにしたのかは覚えていない、他日に振り替えて請求してくださいというだけであったという趣旨の供述(原審第一〇回口頭弁論調書中の同証人調書三九、四〇頁)をしていること、松尾課長は三月一〇日当日夕方の第一審原告からの質問に対し、午前中の内務作業への支障が時季変更行使の理由であると説明していた(<証拠略>)が、第一審被告は、原審では午後の速達配達についての業務支障を中心に主張していたこと(原審の第一審被告の最終準備書面である第四準備書面でもそうである。)に照らすと、(証拠略)などの証拠は採用できないというべきであり、第一審原告本人が供述するように、松尾課長は時季変更権行使の理由を明確にその場で述べなかったものと認めるのが相当である。

(三) 三月一〇日当日の午前中の通配の応援については、第一審被告の主張するように、右業務が単なる応援ではなく、重要な本来業務であるということは理解できるものの、勤務軽減者である中村班長の応援等の必要上第一審原告の右応援作業は必要欠くべからざるものであったとする第一審被告の主張は理由がない。

すなわち、速達二区二号便担当予定の非常勤職員加藤が午後通配一五区の中村の応援に入り、速達二区二号便を担当できなくなったことは、前記認定のとおりであるが、中村は三班の班長であって班内の事情に通じていると認められる(<人証略>)ところ、同人が午前中の自己の内務作業の応援を必要としたのであれば、三班に配置されていた非常勤職員の田中を一二及び一三区の応援に入らせるということ(<証拠略>)はおよそ想定し難いことであり、むしろ自己が担当する一五区の応援の必要性は相対的に低かったと判断したものと推認されること及び中村は自転車で配達するという理由で勤務軽減を受けている者ではあるが、内務作業はベテランの職員であって通区しており、むしろその作業効率は高かったものと推認されること並びに三月一〇日当日通常配達にかかる郵便物数は平常以下であると予想されたこと(<人証略>、弁論の全趣旨)によれば、第一審原告の年休請求時点で、中村のための内務作業の応援が特に必要な状況であったとは認められないというべきである。

また、第一審被告は、非常勤職員の田中には元々担当させるべき職務があったもので、同人は第一審原告の代替要員になり得ない旨の主張をしているが、三月一〇日当日の予想郵便物数は前記のとおりであったところ、当日の午前中の三班の通配の応援作業が右田中のみでは十分ではないと予想されたとは認められない。すなわち、(人証略)は、課全体の事情には土居副課長が通じており、年休請求に対する判断をする上では同副課長に相談しており、現に第一審原告の年休請求についても相談したことを供述しているところ、(人証略)は、三月一〇日当日は午後の速達配達の遅れが予想されたことを業務上の支障として供述し、通常郵便物数以下が予想される状況の下では、通配の各班に非常勤職員各一名を配置する必要すらなかったとし、第一審原告の午前中の通配の応援作業の必要性については、むしろこれを否定していること、現に、三月一〇日当日四班の通配担当職員五名中三名が作業を終えた時点で時間年休を取得していること(<証拠・人証略>)に照らすと、第一審原告の午前中の欠務により、通配の応援作業に支障が生じるおそれはなかったことが推認できるというべきである。そして、以上の認定、説示によれば、三班以外の通配区の応援作業の必要上、第一審原告の午前中の時間年休を付与できないような状況にあったものとも認めることができない。(人証略)の供述中、右認定に反する部分は採用できない。

(四) 三月一〇日当日の午後の速達配達の関係では、右業務の通常の流れからすると、午後一時三〇分から道順組立等の準備作業を行い、午後二時三〇分ころまでには配達に出発する必要があった上、三月初旬から中旬にかけてのこの時期は、大学入学試験の合否を伝えるレタックス等があるため、平常時と比べると一日の速達の配達量が倍近くあることが予想された(<証拠・人証略>)ことから、何らかの手当を考える必要があったものということができる。

しかし、第一審原告の午後にかかる年休請求は、午後二時一五分までで、作業開始の遅れは四五分に留まるものであり、かつ、速達の配達必要数は一号便が最も多く、二及び三号便は相対的に少ないのが通常である(<証拠・人証略>)ことからすると、第一審原告の時間年休取得により生じることが予想される支障は、それほど大きなものではなかったということができる。また、(人証略)によれば、第一審原告の年休請求時点では、仲村に二区一号便に引き続いて二区二号便も担当させることを考えたと供述しているところ、前記のとおり、三区については、秋田が現に一ないし三号便を当日担当したことが認められることも総合すると、仲村に二区二号便も担当させることにより第一審原告の代替要員とすることも可能であったと認められる。この点について、第一審被告は、一号便担当者に二号便を担当させることは、突発的な欠務による要員不足に対処するための例外的措置に過ぎないと主張しているが、証拠(<証拠略>)によれば、平成五年三月一九日の速達一区の一及び二号便を同じ職員が担当したことが認められ、右事実によれば、このような事態は第一集配課においては常態的であったことが推認されるものであり、右主張によっても、右の認定を覆すに足りるものではない。また、仲村に二区二号便も担当させた場合には、午後の通配の内務作業の応援をする本務者がいなくなるが、当日の通常配達にかかる予想郵便物数は前記のとおりであり、かつ、第一審原告が四五分作業開始は遅れるものの右応援作業に就くことは可能であったものと認められるから、この関係で、業務上の支障発生が予測できたということもできない。

次に、前記のとおり、非常勤職員の加藤が午後通配の応援に入ったため、田中課長代理が速達二区二号便の補助に入ったが、同課長代理が担当したのは元々加藤が担当予定であった部分に関するものに過ぎず、第一審原告が担当予定の作業の補助に入ったものではないから、第一審原告の欠務により現実に業務上の支障が生じたということもできない。そして、現実にも、第一審原告は、当日の速達郵便物数が通常より多かったにもかかわらず、格別の遅れなくすべて配達し終えたこと(<証拠・人証略>、第一審原告本人)が認められるのである。

以上のとおり、午後についても、第一審原告の作業開始の遅れは、予想される業務量を前提としても重大な影響を与えるとの予測を導くものではなく、仲村による代替可能性もあったものである。そして、証拠上、第一審原告の午後の欠務により他の班の業務に支障を与える可能性があったとも認められない。(人証略)の供述中、以上の認定に反する部分は採用できない。

(五) 以上の認定、説示、特に(二)の認定と、前記第一審被告の当審における主張2の(四)の葬儀出席を理由とする年休請求に対する扱いに関する主張によれば、松尾課長は、第一審原告の年休請求が葬儀出席を目的とするものであったため、業務上の支障について具体的に検討せず、代替要員の確保等の慎重な配慮を怠り、時季変更権を行使したものと推認することができるということができる。」

14  原判決六四頁末行(95頁2段30行目)の「(三)」を「(六)」と改める。

三  本件訓告処分の適法性及び損害の有無について

原判決の事実及び理由の第三争点に対する判断三(原判決六五頁二行目(95頁3段2行目)から九行目(95頁3段18行目)まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

四  結論

以上によれば、第一審原告の請求につき、平成五年三月一〇日分の未払賃金及び同額の付加金合計金七四九四円及び内金(未払賃金)三七四七円に対する平成五年五月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、これを理由があるものとして認容し、その余を理由がないものとして棄却した原判決は相当であるから、第一審原告及び第一審被告双方の各控訴を棄却することとする。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 前坂光雄 裁判官高田泰治は、転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 井関正裕)

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